グラスに注ぐ
ボトルの口にあたる部分をグラスのボウル開口部上方に持ってきて、
ボトルを徐々に傾けることにより内部の液体がその位置をグラス内に移して…
というような説明を受けなければグラスへ注ぐことが出来ない御仁は、
悪いことは言わない、ワインを飲むのを止めなさい。
貴殿は酒を飲むより、小学校から学習し直したほうが身のためである。
そうではなく、注ぐこと自体は可能なんだけれども、いかにして注ぐべきであるか、
ということにご興味がおありの御仁に対して、これまた枝葉末節部分を説こうとするのが本頁の趣旨である。
注ぐ際のボトルの持ち方
持つ向きに関しては、ボトルの形態は大抵円筒状であるため、どこを持とうが結果に大きな違いは無い。
が、師範は大抵ラベルが上に来るように持っている。
学生時代の化学実験の影響かもしれないが、
ボトルの口から垂れたワインがラベルを汚すのを潔しとしないからである。
また、若干澱があるようなワインの場合、師範はそのワインを
- 数日寝かせて、澱をボトル円筒部ラベルと反対側の一辺に集め
- 数日立たせて、澱をボトル底部の一部分に集める。
という作業を行うので、ラベルを上に向けると、自然と澱が一番舞わない状況を実現できるためでもある。
レストランなどでは、ワインを注がれる人のほうにラベルが向くようにボトルを持つ場合があるらしいが、
師範はそこまで気を遣うことはない。というか、大抵「注がれる人=注ぐ人=自分」であるので、
ラベルを上に向けることはそのやりざまに合致したものであるはずである。
持つ位置に関しては上すぎず下すぎず中ほどを旨としている。
あんまり上で首のあたりを持ったりすると、一升瓶から湯飲みに焼酎をそそぐオッサンのようであるし、
あんまり下だとバランスが悪くて手が疲れるからである。
これまたレストランなどでは、かなり下のほうを持って注がれる場合も多いが、
それは
- ラベルが見えるのを邪魔しないため。
- 遠くのグラスに注ぐ必要があり、距離を稼ぐため。
あたりが理由となっていると思われる。
それを自分一人でやってもなんだかカッコつけてるだけでおマヌケなように感じる。
ボトルを傾ける際に
まず、注ぐ際のボトルの位置に関しては、出来るだけこぼさないように、
グラスのボウル開口部にボトルの口をもってくる、ってことは言わずもがなである。
次に、注ぐ際にグラスを持つか持たないか、ということに関しては、
師範はどっちでも良いと思っている。もちろん、レストラン等でサービスの方に注いでもらう際、
宴会よろしく『どうもどうも、おっとっとっと』ってグラスを持ち上げて注いでもらうのは
あまり感心しないが、自分で注ぐのであれば、やりやすい方でやるのが良い。
師範の場合、まだ食事を口にしない一杯目は、グラスの内側がワインの飛沫で汚れるのを嫌って、
グラスを持ち上げ傾けて注ぐ場合が多い。食事とともに飲む段階となったら、
面倒なんでそのままドボドボと、である。
「飛沫で汚れる」っつったって、スワリング(ワインをクルクル回すこと)してしまえば同じだけれども。
更に、グラスとボトルとの距離であるが、以下に示すような相反する問題が存在する。
- グラスとボトルが近い場合
- グラスとボトルが遠い場合
- 狙いを定めるのが難しい。
- ジャバジャバと注がれてみっともない。
- 必要以上に空気に触れて、酸化するおそれがある。
従って、グラスとボトルが当たらない程度になるだけ近く
の位置にする、というのが最適解であろうと思われる。
注ぐ量
随分以前のこととなるが、とある(それほど高級でない)フレンチ・レストランでのことである。
我々の席のそばで、中年くらいのオッサンと、その部下と思しき妙齢の女性が食事をしていた。
なにやら怪しげで、『もしや不倫のお誘いでは?』と思わせる雰囲気プンプン、であった。
オッサンのほうで結構張り込んだらしく、ちょっとお高目のブルゴーニュがテーブルにあり、
グラスは(多分)リーデルのブルゴーニュ
であった。あまり気張らない店で良いワイン、そこまでは良い。オッサンの戦略は成功と思えた。
が、である。そのオッサン、どうしても女性を酔わせたいらしく、
グラスが空かないうちから女性のグラスへワインをガンガン注ぐ。
もちろんグラスが空いたらサービスの方が注いでくれるのだが、オッサンの場合は手酌(とは言わないか)
でガンガンである。みるみるうちにグラスは満たされ、飲むために傾けたらグラスの脚が折れるんじゃないか、
という状況になってしまった。
そうなると、さすがのワインも美味そうに見えないし、女性もはなはだ当惑ぎみ、
少しでもワインをご存知の女性であればちょっと遠慮したい状況であったであろう。
という訳で、残念ながらオッサンの戦略はそこで失敗に終わったであろうと師範は想像する。
前置きが長くなったが、要するにナミナミと注ぐべからずということである。
グラスの上部は液体を満たすための部分ではなく、香りを満たすための部分であると考えるべきである。
グラスの大きさにもよるが、小さいグラスで1/3くらい、大きなグラスでは1/5以下くらいが適量と思われる。
ただ、「グラス一杯おいくら」というお店では、ナミナミと注いで貰ったほうが嬉しいことは言うまでもない。
スパークリング・ワインの注ぎ方
(追記 2007/05/25)
スパークリング・ワインをフルート型のグラスに注ぐ際、
一杯目からいきなり普通の量入れようとすると泡がゴゴゴーッと上がってきて、
溢れるまでは行かなかったとしても大量の炭酸を一気に吐き出して「もったいねぇことしたなぁ」
ということになった経験がおありの方も多いはず。
特に、良いシャンパーニュみたいにガス圧が高くて/液体の粘性も高くて/お値段も高いスパークリングだとなおさら。
こういう際には、まずほんのちょっぴり注いで、上記の現象を極く少ない状態で起こさせた後、
泡が落ち着いてから普通に注ぐ、という二段階注入法が効果的。
複数人で飲む際にいくつかのグラスがあったら、
まずちょっぴりずつを全部のグラスに注いで行き、
一周した頃には最初のグラスの泡が落ち着いているんでちゃんとした量注ぐ、というのがナイス。
ただそうすると、ちょっぴりずつ注いでいる時に『え!こんなに少ないの?』って顔をする御仁が必ず居るんで、
泡が落ち着いたらちゃんと注ぐ(ケチでそうしているわけではない)ことを説明するのが面倒だったりするけれども。
by
師範