栓を抜く
極めて安物で紙パックのワインやスクリューキャップのワインを除いて、
大抵のワインはコルクで栓をしてある。
(追記 2007/05/25)
最近はそうでもないですなぁ。豪州産を中心に、そこそこ高級なワインもスクリューキャップ化が進んでいる模様。
「10年ひと昔」であります。
素人な方にとって、この「コルクを抜く」という作業は『面倒だし失敗しそうで恐い』という話も耳にする。
だが、慣れてしまえばちっとも面倒じゃないし、ある意味"快感"とも思える行為である。
大切に封印されてきたものを、今まさに自分の手によって開封する行為だからだ。
ここに、師範が経験によって得た「失敗しない抜き方」について説明する。
まずコルクを抜く道具であるが、師範はソムリエナイフを使用している。
別に気取っているわけではなく、数ある抜栓道具の中でこれが一番使いやすく失敗しにくいと思うからである。
なぜソムリエナイフが使いやすいか、他の道具を例に挙げて説明する。
T字型のコルク抜き
酒屋とかで"サントリー"とか書かれたやつをたまにタダで貰えたりする、例のアレである。
欠点として以下の3点が挙げられる。
- キャップシールを切る道具が別に必要。
- 抜くときに馬鹿力を必要とするため、大抵の場合股に挟んだりして不格好。
- "スッポン!"と景気良く抜けたりすると、周りに飛び散ったりして大変。
もちろん利点もある。
余程の貧乏人かつ力持ちな御仁を除いて、利点を埋めて余りある欠点ではないだろうか。
ヤジロベェ型コルク抜き
「夫婦二人に小学生と幼稚園の子供二人、
ワインなんてめったに飲まないけどクリスマスとかのお祝いの時にはロゼを買ってきたりする」
家庭には必ずといって良いほど存在する、コルクにスクリューをねじ込むと腕みたいなレバーが上がってきて、
そのレバーを下げることでコルクが抜けるという代物。日本では一番メジャーなコルク抜きではないだろうか。
師範はコヤツが苦手である。
- キャップシールを切る道具が別に必要。
- スクリュー部分の径が小さく、下手をするとコルクがグズグズになる。
- 大抵スクリュー部分が短く、「差し込んでは抜き」を繰り返さなければいけない。
これは面倒であるうえ、コルクを途中で折ってしまう危険性がある。
- ナリがデカくて不格好。
- 楽に抜けそうに見えるが、必要な力はソムリエナイフと大差無いと思う。
利点はあまり思い付かないけど、
- 「文明の利器」といった感じがして、なんか得した気分。
ってぐらいか。
見た目の複雑さから『これが一番便利に違いない』と思っておられる御仁も多かろうが、
悪いことは言わない、ソムリエナイフに変えなさい。
安いのだったら1,000円も出せばあるし、前述の「コルクを抜く快感」が全然違うから。
もちろん他にもいろいろコルクを抜く道具はあると思うが、あんまり一般的じゃないし、
なにより師範は使ったことが無いんで説明を割愛する。
さて、「道具ソムリエナイフが一番」ということをご理解頂いたら、いよいよ抜栓方法の指南である。
まず、キャップシールは、ソムリエナイフの刃の部分を使い、コルクを抜く前に剥がしたほうが良い。
(キャップシールの頁参照)
で、コルクの頭の部分が現れたらいよいよコルクにスクリューを刺す。
この刺し方には奥義が存在する。
- スクリューを寝かせ、
コルクのド真ん中に、スクリューの先端がコルク長手方向に対して垂直になるように刺せ。
- スクリューを約半回転分差し込む間にスクリューを起こせ。
である。
この件に関し、以前師範は大きな誤解をしていた。
以前の師範のやり方は、
コルクスクリューの中心線とコルクを円柱と見立てた中心線が一致するよう、
コルクの差込み位置はコルクの中心点からコルクスクリューの螺旋部分の半径分離れた位置(A)とし、
差込み方向もスクリューの先端が進行する方向に合わせる。(右図参照)
というものであった。
理論上は、旧師範方式の方が正しいと今でも思っている。が、非常に失敗の多い方法であった。
なぜ失敗が多かったのか、自分なりに分析すると、
- コルクを差し込む位置が狂うと最悪。
- コルクを差し込む方向が狂うと最悪。
ということであろう。
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そういった意味では、上に提示した「ド真ん中方式」非常に失敗の少ない方法である。是非参考にされたい。
次は差し込み方である。
当然スクリューを(ソムリエナイフごと)回して差し込んでいくわけであるが、
うっかり油断すると、スクリューの進行方向がコルクの長手方向からずれで、
スクリューがコルクの横面からはみ出してしまう。
特に安ワインのコルクの場合、あまりコルクの質が良くないためコルク中の組成が均一でないことが多く、
スクリューの先端はコルクの柔らかい方へ逃げて行きがちである。
これを回避するには、
姿勢が大切である。
方向転換といってもまた刺し直したりするわけではない。
差し込みつつ、スクリューを真っ直ぐの方向へ向けることである。
特に差し込み初期は、スクリュー自らの進行に一切耳を貸さず、
自分が進めたい方向へ強引にもっていくくらいの気持ちでいたほうが良い。
なにごとも初めが肝心である。
次に差し込み量が問題となる。
当然ながら、
- 差し込み量が多すぎるとコルクを打ち抜き、液面にコルクの粉が浮いてしまう。
- 差し込み量が少なすぎるとコルクを途中で折ってしまう可能性がある。
ので、コルクの長さに対して
- ほぼぴったり(よりちょっと足りない)量だけ差し込む。
のが良い。
ただ、ここで問題を複雑にしているのが、ワインによってコルクの長さが異なるという事実である。
一般的な傾向として、
- 高級ワインは長く、安ワインは短い。
- ボルドータイプは長く、ブルゴーニュタイプは短い。
- キャップシールが鉛のものは長く、プラスチックのものは短い。
- トップに年号なんてのが焼き印されてるものは長い。
- イタリアには極めて短いコルクのものが存在する。
ということが言えると思うが、それも必ずそうではないし、なにより「長い」「短い」といっても相対的な話で、
実際は経験と勘に頼ることが多い。
もし『どうしてもぴったりにしたい』というのであれば、
キャップシールの頁で説明した「キャップシールをすべて剥がす方法」
を採って頂き、前もってコルクの長さとスクリューの長さを比べて丁度良い位置を記憶するほかあるまい。
所定量差し込んだら、次にコルクを抜く行為に移る。
まず、
- ソムリエナイフ本体をななめにし、鍵状の金具をボトルの口に引っかける。
必要がある。(右図参照)
この際、本体を斜めにしても金具がボトルの口まで届かない場合がある。
差し込み量が多く、ソムリエナイフ自体が小ぶりである場合に多い。
その際は後述するような、二度抜き方式を採る必要がある。
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金具をかけたらいよいよ抜く。
1.利き手でソムリエナイフの鍵状金具と反対側を持つ。反対の手でボトルの口の部分と鍵状金具を持つ。(図1) |
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2.最初「カクン!」ちょっと強めに利き手を持ち上げ、コルクをボトルの内側から離れるように動かす。(図2) |
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3.後はゆっくり利き手を持ち上げ、テコの原理を利用しコルクを抜いて行く。(図3) |
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4.ソムリエナイフを最後まで持ち上げてもまだ抜けきらない長いコルクの場合、
利き手で鍵状金具とコルクを包み込むように持ち、
最後の部分を(自力で)抜く。(図4) |
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ここで、一番大切なことは、
- コルクにかかる力が、常にコルクに対し垂直方向になるようにする。
ということである。
抜き始め(図2)の時はあまり気にすることは無いが、抜き終わり(図3)の時は、
このことに気を配らないと、横方向に力がかかってコルクを折ってしまう場合があるからだ。
難しく感じられる御仁は、下の奥義を参考にされると良い。
- 抜き始めは鍵状金具の付け根を支点に、利き手を力点に。
- 抜き終わりは鍵状金具の付け根を力点に、利き手を支点に。
要するに、抜き終わりに差し掛かったらソムリエナイフを引き上げる方向に力をかけるのではなく、
ソムリエナイフが(鍵状金具の付け根を継ぎ手として)"く"の字に曲がっているものを、
鍵状金具の付け根を横方向に押して、"く"の字の曲がりを浅くする方向に力をかければ良い、ということである。
これによって、抜き方が悪いことに起因する「コルク折れ」を、概ね回避することが可能となる。
また、最後の部分を(自力で)抜くという作業の際は、少しコルクを("の"の字を書くように)
こね回すと抜きやすい。
コルクが抜けたら、その後スクリューからコルクを外し、おもむろにコルクの匂いを嗅ぐ。
そしてニヤリと笑い、抜栓作業は完了である。
(ボトルの口が汚れている場合、布とかティッシュとかでそれを拭くのも大事である)
以上が師範流コルクの抜き方であるが、
この「一度に抜く」方法以外に「二度に分けて抜く」方法も存在する。
二度抜き方式
スクリューをコルクにある程度差し込んで一度軽く抜いておき、
更に深くスクリューを差し込んで全部を抜く方法。
コルクの長さに対し、ソムリエナイフのサイズが小ぶりの場合はこの方式を取らざるを得ない場合もあるが、
それ以外は推奨しない。なぜなら、
- 最初の抜きの際コルクが最後まで入っておらず、
柔らかいコルクの場合はスクリューの入っていない部分が折れはしないか?
という心配がある。
- なんか「イサギヨさ」に欠ける感じ。
だからだ。
しかし、いろいろな方の抜き方を見るにつけ、こっちの方が主流のようでもある。
もし「この方式にはこういう利点がある」ということをご存知の御仁は是非ご連絡頂きたい。
コルクが折れた場合
では、あいにくコルクが折れてしまった場合はどうするか?
その場合は、以下のようにすると解決できる場合が多い。
- 残ったコルクに、出来るだけ斜めにスクリューを刺し、完全に差し抜く。
- その際、最初に刺す時に、下向きの力がコルクへかからないよう(横向きの力がかかるよう)
注意する。
- 斜めのスクリューを維持しながら、
ボトルの内壁へ擦り付けるような感じで(テコを使って)ソロリソロリとコルクを引き上げる。
要するに、コルクを下へ落とさないように差し込んで、引き上げるときは耳垢を取るときの要領で、
ということである。
コルクを刺し抜くので、若干コルク粉が液面に浮かぶが、下へ落としてしまうよりはずっと上品かつ楽である。
いろいろウダウダと書き連ねてきたが、
結局のところ、どう抜こうとワインの味が大きく変化するようなものではないので、本質的には御勝手になさるが良い。
また、上記師範流コルクの抜き方の殆どは独学により体得したものであるので、
大きく間違っている場合もあるであろう。その際も是非ご連絡頂きたい。
by
師範