飲む


ここでは、グラスを持ち上げてから口に含んでグラスを降ろすまでの、狭義の飲み方について述べる。

よく、

「まず香りを楽しんで、次に舌の上で転がして味わって」
「ガブガブ飲むのはワインに対して失礼である」
といった、いわゆる"ワインマニア"な方のご意見を見聞きしたりするが、一向に気にする必要はない。 自分で金を払って買ったワインに失礼も糞もない。向こうは単なる商品、飲みたい様に飲む。 (もちろん、ワインマニアな方のオゴリをご相伴に預かる場合はこの限りでない。 オゴってくれる方のご気分を損ねない様にするのが人として当然の責務である)

次に、

「耳を澄ませて、ワインのささやきを聞いて」
「飲み込む前に噛んでみて、ワインのテクスチャ(歯応え)を味わって」
といった、『ちょっとこの人は脳味噌的にヤバイかも…』的な意見もタマに見聞きするが、 そういうご意見(およびそういうご意見を発する方)とは、 深く関わりをもたない方が賢明である。

逆に、

「知った顔をしてグラスをクルクル回すのはいかがなものか」
「ソムリエの真似してズズーッと音を立てるのは通ぶってるみたいでカッコ悪い」
といった、"アンチワインマニア"的なご意見も見聞きするが、これらも全く気にする必要は無い。 グラスを回したきゃいくら回し立って構わないし、 (人様へご迷惑とならないことが確実であれば)どんなに音をたてて飲もうが構わない。 上記のような意見は、ワインマニアを批判する立場であるように見せかけて 『「それはワインマニアのやることである」ということを私は知っている、ということをひけらかしたいワインマニア』 の意見であることが多い。

で、結局のところ「どう飲むべきか」という問に対する答としては、

ご勝手に
である。

…と、それでは指南書としてはあまりにアレなんで、師範は普段どう飲んでるかということを、 あくまでご参考までに記載しておく。


師範の飲み方

まず、最初1杯目をグラスに注いだら、やっぱり色を見る。 「向こう側に白い紙を置いて」とか「太陽光にかざして」なんてことまではやらないが、 普通にグラスを傾けたり光にかざしたりして見る。 色を見る理由は、 一般に美味いワインは美味そうな色をしているし、 ブルゴーニュの赤ワインなんて、純粋に綺麗な色だと思うからである。 (「稽古日誌に記載する」というのが一番の理由だったりもするが)

次に、香りを嗅ぐ。 まずはそのままグラスに鼻を突っ込んで嗅いで、次にクルクルとグラスを回して(スワリングして)嗅ぐ。 ウソのような話であるが、そのまま嗅ぐのとグラスを回して嗅ぐのとでは、 香りのボリュームのみならず香りの傾向まで変って感じられる事がある。 「ブーケ」だとか「アロマ」だとか、なんだか小難しいことは師範にはよく判らんけれども、 そこらへんが楽しくて結構長い時間嗅ぎっぱなしだったりする。
もちろん香りを嗅ぐ/嗅がないは各人の自由であるが、嗅がずに飲むのは実際もったいない行為だと思う。 1,000円のワインだってその値段の半分くらいは香りの値段だと思うし、 高級ワインに至ってはその大半が香りの値段だと思うからである。 「安ワイン道場」なのにグラスは良いものを薦めたり、 グラスへの注ぎ方にも言及しているのは、 すべて香りに金を払っているという意識からである。

そして、口に含む。 といってもすぐには飲まない。 口へ含む際も、できるだけ液体と空気両方が口腔内へ入ってくる様に吸い込むような感じで含む。 その時鼻に抜ける香りが、鼻で嗅いだ香りとは結構違ってたりして面白い。 (さすがに"ズズズーッ"はやらない) そして、十分に舌の周りに液体を行き渡らせ、どんな味がするかしっかり確認していよいよ飲み込む。 発泡ワインでは"チリチリ"感も楽しむべき一要素である。

飲み込んだ後も大切である。 モノによっては強烈な酸味が襲ってきたり、 またモノによっては口のなかにずーっと残っているように錯覚させてくれるワインもあるからである。 一般に「アフター」とか「余韻」とかいわれる、この現象を感じるのもワインを飲む楽しみの一つと考える。 よって、飲み込んだ後すぐには料理等別の物は口にせず、ただボヤーッとしている。

ただし、それはあくまで1杯目の1口目の話であり、 それ以降は自分でも記憶が無いくらいいい加減である。
まず色は見ない。 抜栓後時間が経って色が変った経験なんて無いし、色よりも香りや味へと興味が移っているからである。 もちろん、よほど綺麗な色のワインは何度も「やっぱ綺麗だよなぁ」なんて見たりはするが。
香りは結構何度も嗅ぐ。香りは時間的変化が一番激しい要素だと思うし、 前述の如く香りに金を払っているからである。というか、場繋ぎ あるいは 単なる癖として嗅いでいる部分もある。
飲み方的には結構ゴクゴク飲んだりする。 軽快な白ワインとかは長いこと口に入れておくと金属みたいな感じが強くなるし、 酸味の強い赤ワインとかもゴクゴクいったほうが良かったりするからである。

つまり、師範の飲み方は

最初は集中、あとは適当に
である。


と、自宅ではそんな風に"イッパシ"っぽい師範であるが、 レストラン等でホスト・テイスティングする段になると途端に簡素になる。
レストランって、大抵グラスが右側に置かれている。 で、師範は左利きゆえ右手でグラスを持ってしまうと上手くグラスが回せないし、 なんだか自分でぎこちなくなるからである。 もちろん最初から左手で持てば良いんだけど、 だいたい手に持った後でそのことに気づくことが多いし、 持ち替えても良いんだけど、それもなんだか珍妙な感じがしてしまうからである。
…なんて理由もあるにはあるんだけど、 ホントの理由はやっぱりなんだか照れ臭くて恥ずかしいんだなぁ、あの儀式って。
というわけで、チラッと色見て、そっと香りを嗅いで、チョロッと飲んで、 「ハイお願いします」である。所要時間約5秒、ニワトリのようなテイスティングである。

(追記 2001.02.18)

by 師範